「転勤なし」の求人票で注意したいこと

温かな光を背景に、腕組をして微笑む白石社会保険労務士

―採用時の説明が、後のトラブルを防ぐ―

求人票に「転勤の可能性なし」と書かれていた場合、応募者が「この勤務地で働き続けられる」と受け止めるのは自然なことです。
勤務地は、通勤時間や家庭の事情、介護、子育てなど、生活設計に直結する大切な労働条件だからです。

今回の裁判では、求人票に「転勤の可能性なし」と記載されていたにもかかわらず、裁判所は勤務地限定の合意成立を認めず、配転命令を有効と判断しました。理由として、求人票の特記事項に「転勤は本人の希望を考慮したうえで決定する」といった記載があったことが重視されています。

つまり、求人票の一文だけではなく、求人票全体の記載や、採用時の説明、雇用契約の内容などを総合的に見て判断されるということです。

社労士の立場から見ると、この事例は、採用時の労働条件の示し方について大きな示唆があります。

特に注意したいのは、「転勤なし」「勤務地限定」「希望を考慮」といった言葉の使い方です。
これらは一見わかりやすい表現ですが、実務上は誤解を生みやすい言葉でもあります。

たとえば、会社として将来的な配置転換の可能性を残しておきたいのであれば、「転勤なし」と断定的に書くことは避けるべきです。
反対に、本当に勤務地を限定するのであれば、雇用契約書や労働条件通知書にもその旨を明記し、就業規則との整合性も確認しておく必要があります。

また、「本人の希望を考慮する」という表現も注意が必要です。
考慮するということは、必ず希望どおりになるという意味ではありません。けれども、働く側からすると「希望を聞いてもらえる」「無理な転勤はない」と受け止める可能性があります。

そのため、採用時には、次のような点を丁寧に説明しておくことが大切です。

・勤務地は限定されるのか
・異動や転勤の可能性はあるのか
・あるとすれば、どの範囲であり得るのか
・本人の希望や家庭事情はどのように考慮されるのか
・最終的な判断は誰が、どのように行うのか

求人票は、採用活動の入口にすぎないように見えますが、応募者にとっては職場を選ぶ重要な判断材料です。
ここでの表現が曖昧なままだと、入社後に「聞いていた話と違う」という不信感につながります。

会社側としては、求人票、雇用契約書、労働条件通知書、就業規則の内容をそろえること。
そして、採用面接や入社時説明で、誤解のないように補足すること。

これは単に裁判で負けないための対策ではありません。
働く人の生活を尊重し、会社との信頼関係を築くための基本でもあります。

「転勤なし」と書くなら、その意味を明確に。
「希望を考慮する」と書くなら、希望が必ず通るわけではないことも丁寧に。

採用時の一言が、後の大きなトラブルにつながることがあります。
だからこそ、労働条件の説明は、できるだけ具体的に、そして誠実に行うことが大切だと思います。

【NEWS】首都圏の貨物軽自動車運送事業者の事業協同組合で、配車業務などに従事している労働者が配転命令を不服とした裁判で、東京地方裁判所(安江一平裁判官)は勤務地限定の合意成立を認めず、配転を有効と判断した。求人票には「転勤の可能性なし」と明記され、労働者も履歴書の希望欄に自宅近くの事業所へマイカー通勤を希望すると書いていたが、特記事項の表記を考慮すると、求人票全体としてみれば転勤の可能性がないと理解されるのが通常とはいえないと指摘。配転は有効とした。特記事項には転勤は本人の希望を考慮したうえで決定するとの記載があった。<ニュース提供元 株式会社労働新聞社>

目次