「部下を注意したいけれど、パワハラだと言われるのが怖い」
管理職の方から、このような声を聞くことが増えました。
遅刻を繰り返す。決められた手順を守らない。報告をしない。同じミスが続く。
本来であれば、管理職として注意し、改善を求めなければならない場面です。しかし、少し強く言えばパワハラと受け取られるのではないかと考え、何も言えなくなってしまう。
その結果、まじめに働いている職員に負担がかかり、「なぜあの人だけ注意されないのか」という不満が生まれることもあります。
必要な指導までやめる必要はありません
仕事をするうえで必要な注意や指導が、すべてパワハラになるわけではありません。
職場には、守らなければならないルールがあります。仕事の質や安全を保つために、改善を求める必要もあります。
大切なのは、「注意するか、しないか」ではなく、何を、どのように伝えるかです。
部下の人格や性格を責めるのではなく、仕事上の行動について、確認できる事実を具体的に伝えることが基本になります。
「何回言ったら分かるの」は指導になっているか
例えば、同じミスを繰り返す部下に対して、
「何回言ったら分かるの」
「やる気がないんじゃないの」
「この仕事に向いていない」
と言っても、本人には「自分が否定された」という感情だけが残り、何を改善すればよいのか分かりません。
これを、
「今月、同じ入力箇所で3回ミスがありました」
「どの段階で分からなくなったのか確認しましょう」
「次回からは、提出前にこの項目を確認してください」
と伝えれば、問題となる事実と改善方法が明確になります。
感情をぶつけることと、改善を求めることは違います。
指導するときの5つの手順
部下を注意するときは、次の順番で進めると伝わりやすくなります。
1.まず事実を確認する
思い込みや周囲から聞いた話だけで注意せず、いつ、どこで、何が起きたのかを確認します。
2.問題となる行動を具体的に伝える
「だらしない」「無責任だ」といった人格評価ではなく、実際の行動を取り上げます。
3.仕事への影響を説明する
その行動によって、利用者や取引先、ほかの職員、業務の進行にどのような影響が出ているのかを説明します。
4.本人の話を聞く
一方的に決めつけず、できなかった理由や本人の認識を確認します。指示の出し方や仕事の仕組みに原因が見つかることもあります。
5.次にどうするかを明確にする
「今後は気をつけてください」で終わらせず、次回から何を、いつまでに、どのように改善するのかを決めます。
「パワハラです」と言われたら
必要な指導をしたときに、部下から「それはパワハラです」と言われることもあります。
その場で、
「どこがパワハラなんだ」
「それなら、もう何も言わない」
と反発するのは適切ではありません。
まずは、どの言葉や対応をパワハラと感じたのかを確認します。自分の声の大きさや言葉遣い、人前で注意したことなど、改めるべき点があれば見直します。
ただし、部下がパワハラだと感じたからといって、必要な業務上の指導まで取り下げなければならないわけではありません。
伝え方については振り返りつつ、改善してもらうべき仕事上の問題は、事実に基づいて改めて伝えることが必要です。
管理職が何も言わない職場も働きにくい
ハラスメントを恐れるあまり、管理職が注意も指導もしなくなれば、職場の問題は解決しません。
ルールを守らない人がいても放置される。仕事のできる人にばかり負担が集中する。職員同士の不満や対立が大きくなる。
これでは、安心して働ける職場とはいえません。
管理職に求められているのは、部下を萎縮させることでも、何も言わずに我慢することでもありません。
必要なことを、相手の人格を傷つけず、具体的に伝えることです。
ハラスメント防止の次に必要な研修
これまでのハラスメント研修では、「何をしてはいけないか」を学ぶことが中心でした。
しかし、実際の職場では、その先にある、
「では、部下をどのように注意すればよいのか」
「改善されないときは、どう指導すればよいのか」
「パワハラだと言われたら、どう対応すればよいのか」
という問題に、多くの管理職が悩んでいます。
ハラスメントを防止するだけでなく、必要な指導が適切に行われる職場をつくること。
これからの管理職研修には、そこまで踏み込んだ内容が必要ではないでしょうか。
社会保険労務士として、企業・医療法人・介護施設・自治体等を対象に、「ハラスメントにならない指導・注意・伝え方」をテーマとした管理職研修を行っています。
現場で起こりやすい事例をもとに、指導とパワハラの境界だけでなく、実際にどのような言葉で伝えればよいのかを一緒に考えます。
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