東京都内のペットフードの輸入販売などを営む会社で働く労働者が、私傷病休職の期間満了による自然退職を不服として争った裁判で、東京地方裁判所は自然退職を無効と判断し、会社側に1000万円を超えるバックペイの支払いなどを命じました。
今回の判決で注目したいのは、休職期間の「通算規定」の適用です。
会社の就業規則には、休職期間の途中で復職した従業員が、同一または類似の私傷病によって再び休職した場合、前後の休職期間を通算するという規定がありました。
ところが今回の労働者は、休職期間の「途中」ではなく、休職期間満了後に復職していました。
その後、わずか1週間で再び欠勤に入ったため、会社は以前の休職期間と通算して休職期間が満了したものとして、自然退職扱いとしました。
会社側は、復職後わずか1週間で再び欠勤していることなどから、規定の趣旨を踏まえれば、休職期間を通算する規定を類推して適用できると主張しました。
しかし東京地裁は、この主張を認めませんでした。
就業規則が対象としているのは、あくまでも「休職期間の途中で復職した場合」であり、休職期間満了後に復職した今回のケースにまで適用することはできないと判断したのです。
会社側の考え方にも実務上の合理性はある
今回のケースでは、復職後わずか1週間で再び欠勤しています。
会社側からすれば、「実質的には以前の休職の続きではないか」と考えたとしても不思議ではありません。
休職期間をすべて使った直後に復職し、短期間で同一・類似の傷病によって再び就労できなくなった場合、その都度、新たな休職期間が発生することになれば、休職制度の運用そのものが難しくなる可能性もあります。
そのため、同一・類似傷病について一定期間内に再休職した場合、前後の休職期間を通算する規定を設けることには、労務管理上の合理性があります。
しかし今回問題になったのは、会社がどう考えていたかではなく、就業規則にどう書かれていたかです。
「規定の趣旨」だけでは補えない
この判決から企業が受け取るべき大きなメッセージは、
「規定の趣旨としては同じだから適用できるだろう」では足りない
ということではないでしょうか。
特に自然退職は、労働者にとって雇用契約が終了するという重大な効果を生じさせます。
その根拠となる就業規則について、会社側の解釈によって適用範囲を広げることには限界があります。
今回、会社側には1000万円を超えるバックペイ等の支払いが命じられました。
就業規則のわずかな文言の違いが、結果として企業に非常に大きな経営リスクをもたらすことを示した事例でもあります。
休職・復職規定を改めて確認したい
企業の就業規則を確認する際には、少なくとも次の点を確認しておく必要があります。
- 同一・類似傷病をどのように扱うのか
- 復職後、短期間で再び欠勤した場合をどうするのか
- 前後の休職期間を通算するのか
- 通算する場合、復職後どの程度の期間を対象とするのか
- 休職期間満了後に復職した場合も通算対象とするのか
- 再休職を命じる場合の手続をどうするのか
- 休職期間満了による自然退職の要件をどのように定めているのか
休職制度は、単に「休職期間は○カ月とする」と定めておけばよいものではありません。
復職と再休職を繰り返すケースまで想定して、制度と条文を整備しておく必要があります。
社労士として思うこと
今回の判決は、休職制度について「制度があること」だけではなく、就業規則の条文をどこまで具体的に設計しているかが問われる時代になったことを示していると思います。
会社が「当然このように扱える」と考えていることでも、実際に就業規則を確認すると、その根拠となる規定がなかったり、今回のように適用できる場面が限定されていたりすることがあります。
問題が起きてから「この規定はこういう趣旨だった」と説明するのでは遅いのです。
就業規則に書かれていないことを、後から「規定の趣旨」で補うことには限界があります。
休職・復職規定の不備が、1000万円を超えるバックペイという大きな経営リスクにつながった今回の判決。
自社の就業規則について、「休職」「復職」「再休職」「休職期間の通算」「期間満了時の取扱い」が実際の運用に耐えられる内容になっているか。
今一度、確認しておきたいところです。
※本稿は、株式会社労働新聞社が報じた裁判例をもとに、人事労務管理の観点から考察したものです。
