東京地裁判決が示した職場の課題
育児休業を取得した男性労働者に対し、同僚が送ったメッセージが不法行為に当たるとして、東京地裁が院長と同僚に慰謝料など22万円の支払いを命じたとの報道がありました。
【NEWS】東京都内の診療所で働く男性労働者が、育児休業取得に関する同僚の言動が不法行為に当たるなどと訴えた裁判で、東京地方裁判所(矢崎達也裁判官)は院長と同僚に慰謝料など22万円の連帯支払いを命じた。同僚が労働者に送った「無責任」「自分と家族のことだけ考えているとしか思えない」などのメッセージは、人格的利益を侵害する不法行為と評価。内容も同医院の業務に密接に関連し、純粋に私的なやり取りとはいえないとした。終業時間後の連絡という点を考慮しても、院長の使用者責任は免れないとしている。〈ニュース提供元:株式会社労働新聞社〉
問題となったのは、
「無責任」
「自分と家族のことだけ考えているとしか思えない」
といった言葉です。
裁判所は、これらの発言が労働者の人格的利益を侵害するものであり、単なる私的なやり取りではなく、職場の業務と密接に関連するものであると判断しました。
育休ハラスメントは上司だけの問題ではない
ハラスメントというと、上司から部下への言動をイメージしがちです。
しかし実際には、同僚同士のやり取りの中でもハラスメントは発生します。
特に育児休業については、
「みんなが困る」
「今休まれたら大変だ」
「自分勝手ではないか」
といった言葉が、善意や本音から発せられることも少なくありません。
しかし、こうした発言が積み重なることで、制度利用をためらわせたり、精神的苦痛を与えたりする場合があります。
問題は「休む人」ではなく「休めない組織」
もちろん、現場の人員不足や業務負担の増加は現実の問題です。
医療や介護、保育など、人手不足が深刻な職場ほどその傾向は強いでしょう。
しかし、その負担の原因を育児休業を取得する本人に向けてしまうと、本質的な課題を見失います。
本来問われるべきなのは、
「なぜ一人が休むと職場が回らなくなるのか」
という組織の問題です。
育児休業は法律で認められた権利です。
その権利を行使した人を責めるのではなく、誰が取得しても業務が継続できる体制づくりこそが、事業主や管理職に求められます。
社労士として感じること
近年、男性の育児休業取得率は上昇しています。
一方で、制度は整備されても職場の意識が追いついていないケースは少なくありません。
ハラスメント防止研修では「言ってはいけない言葉」を学ぶことも大切ですが、それ以上に重要なのは、
「なぜその言葉が出てしまうのか」
を考えることです。
人員配置や業務の属人化、長時間労働など、職場が抱える課題が解決されない限り、同じ問題は形を変えて繰り返されます。
今回の判決は、育児休業取得者を守るだけでなく、組織運営そのものを見直す必要性を示した事例といえるのではないでしょうか。
