『モンスター部下』(著者:石川弘子氏)を読んで

― 一般企業の現場にこそ突きつけられる問い ―

本書『モンスター部下』は、2019年に出版されたのであるが、職場で起こる「扱いにくい部下」の問題を、感情論ではなく現実的な視点から整理した一冊である。著者は社労士として数多くの労務相談に向き合ってきた経験をもとに、単なる“困った人”では済まされない部下の行動が、いかに職場全体を疲弊させていくかを具体的に描き出している。

印象的なのは、「モンスター部下」は特別な人間ではなく、職場の曖昧さや遠慮、指導の放置によって生み出される側面があると繰り返し指摘している点である。ハラスメントへの過剰な恐れや、「揉め事を起こしたくない」という管理職の心理が、結果として問題行動を助長してしまう構図は、多くの一般企業で思い当たる節があるのではないだろうか。

本書に登場する事例は、自己正義を振りかざす部下、被害者意識を強める部下、上司の立場の弱さを利用する逆パワハラ型など、いずれも現実の職場で珍しくないものばかりである。読者は「自社にもいる」と感じながら読み進めることになるだろう。

著者が強調するのは、部下を「説得」や「理解」で変えようとしないことである。感情で対応せず、事実とルールに基づいて行動を管理し、記録を残し、組織として対応する。その積み重ねこそが、職場を守る唯一の方法だという姿勢は、管理職にとって耳の痛い部分も多いが、同時に大きな安心感を与える。

本書は、部下を切り捨てるための本ではない。むしろ、健全な職場を維持するために、どこまでが許容で、どこからが組織として線を引くべきかを、静かに問いかけてくる。一般企業において、人材不足や多様な価値観が混在する今だからこそ、管理職だけでなく、人事・労務に関わるすべての人が一度は目を通しておきたい一冊である。

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