議会事務局の仕事と「勘違い議員」から職員の心理的安全性を守る視点

 議会事務局は、しばしば「裏方」と表現されるが、その役割は単なる事務処理にとどまらない。議案や請願・陳情の受け付け、会議の招集・日程調整、会議録の作成や保管、広報紙やインターネット中継を通じた情報発信など、議会が公正かつ安定して機能するための基盤を支える存在である。また、各議員からの調査依頼や視察・研修の調整など、議員活動を技術的・事務的に支える役割も担っている。さらに、多数派・少数派を問わず公平に対応し、執行機関との距離感を適切に保つことで、議会全体の中立性と信頼性を守る「番人」としての役割も大きい。

 しかし現場では、ときに議員側の「勘違い」によって、その専門性や中立性が軽視される場面がある。自らを「お客様」のように振る舞い、緊急性の低い用件を時間外や休日にも繰り返し要求する議員。自分の立場を誇示し、大声や暴言で職員を威圧したり、「人事に口を出せるかのような」言動で脅す議員。特定の職員を名指しで執拗に責め続ける議員。こうした行為は、もはや議会運営に必要な「厳しいチェック」ではなく、権限の誤用・乱用であり、職員の尊厳を傷つけるパワーハラスメントと言わざるを得ない。

 このような言動が続くと、職員の心理的安全性は損なわれる。心理的安全性とは、「ここでミスや疑問を口にしても、過度に責められたり、人格を否定されたりしない」と感じられる状態を指す。これが失われると、職員はミスや懸念を報告しづらくなり、問題を隠したり、黙って従う方が安全だと考えるようになる。その結果、本来であれば早期に共有されるべき情報が上がらず、議会運営や住民サービスの質が低下する恐れがある。現状として、女性職員や若手職員が辞めるには至っていないとしても、「ここで長く働き続けられるだろうか」「自分が標的になったらどうしよう」といった不安や萎縮が蓄積すれば、意欲の低下や健康面の不調となって表れる可能性が高い。

 こうした事態を防ぐためには、個々の職員の「我慢」や「頑張り」に頼るのではなく、議会としてルールと仕組みを整えることが重要である。たとえば、議員によるハラスメントを想定したガイドラインや議会内ハラスメント防止指針を策定し、具体的な禁止行為、相談窓口、対応の流れを明文化することが考えられる。併せて、暴言や過度な要求があった場合に、日時・場所・内容を記録し、上司や議長と共有する仕組みを整えることで、問題を「個人対議員」の関係に矮小化せず、「議会全体の課題」として扱うことができる。

 さらに、職員が一人で議員対応を抱え込まないよう、複数名での対応や上司の同席を基本とする運用も有効である。「それは執行部の所管ですので担当課からご説明します」「本件は業務時間外ですので、明日の執務時間内に対応いたします」といった、丁寧に断る共通フレーズを組織内で共有しておくことも、職員が安全に「NO」と言える力を支える。加えて、女性職員や若手職員が不安や違和感を声に出しやすいように、定期的な面談や小さな相談の場を設け、早い段階でサインを受け止めることも大切である。

 議会事務局の職員が安心して専門性を発揮できる環境を整えることは、単に職員を守るためだけではない。結果として、議会運営の透明性と安定性が高まり、議員の議論の質も向上し、最終的には市民にとって信頼できる議会につながる。勘違いを許さず、互いの役割を尊重し合う関係をつくることこそが、地方議会のガバナンスを強くする第一歩であり、女性や若手を含む多様な人材が「辞めずに、力を発揮し続けられる」職場づくりにつながっていく。

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